人に逢うために外出したときの話です。
家から歩いて10分くらい、地下鉄の駅に着いたときにはちょうど電車が出たところでした。
時間には余裕を持って家を出たので、それほど慌てることもなく、次の電車を待つことにしました。
時刻は夕方少し前、次の電車は5~6分後に来るはずです。
大阪市内の交通の便の良いところに住んで、本当に良かったと思う瞬間です。
電車が出たばかりですから、ホームには自分しかいません。
誰も座っていないベンチに腰かけて、時間を潰すためにスマホを取り出そうとします。
しかし、ポケットからスマホを取り出す手を止め、じっと目をつぶります。
(最近、年のせいか目が疲れているなぁ・・・)
そういえば、目の周りの筋肉を鍛えることで、衰えを抑えることが出来ると聞いたことがあります。
そう思って、目をつぶったまま眼球をギョロギョロ動かしたり、強く目を閉じたり力を抜いたり、思いつく限りの目のエクササイズを施しているうちに、また別の考が頭をよぎります。
(よし!、次の電車が来るまで目をつぶっていられるか、自分との勝負だ!)
まるで受験勉強中に集中力が途切れて、ゴミをゴミ箱に捨てるときに、これが入ったら合格できる!と念を込めて投げる学生のようなものです。
しかし、ただ目をつぶって目の周りの筋肉を動かすだけだと飽きてしまいます。
他になにか目をつぶったままで次の電車が来るまで時間を潰す方法はないか?と考えます。
(そういえば、人間は目が見えないと耳の鼻といった他の器官が研ぎ澄まされて、僅かな音や臭いにも敏感になるらしい)
そう思ったら今度は目の周りの筋肉動かすことを止めて、耳に意識を集中し周りの音に聞き耳を立てます。
地下鉄のホームですから、屋外で聞く車の走行音のような雑音は耳に入ってきません。
かすかに何かの機械音がしますが、たぶん遠くで動くエアコンの音でしょう。
それ以外はいたって静かなもので、集中するにはちょうど良い環境です。
そこに、コツコツと足音が聞こえてきました。
(はっ!これはチャンス到来)
目をつぶったまま、この音に集中します。
(たぶんどちらかといえば、男性の履く革靴ではなく、女性のハイヒールのような気がする)
(しかも、音のタイミングからして歩幅が狭い・・・ということは女性だ!)
(よーし!、ここはさらに集中して、耳だけでなく匂いも嗅ぎ分けよう)
(何となく甘い香水の香りがするから、これは女性で間違いない!)
目をつぶることによって研ぎ澄まされた耳と鼻で、やってきた人が女性だとわかりました。
そう思ったら、自分には隠れた才能が、超能力があるのではないか?と思い始めました。
人間の機能というのは30%ほどしか使われていなくて、危機が訪れたり何か特別なことが起きたときに、開花されると聞いたことがあります。
性別だけではなく、もっと彼女のことが知りたいと心から思うことによって、自分の隠れている超能力が開花するのではないか?と考え始めました。
(これはきっと超能力が開花するときなのだ!)
もっと集中して、彼女の髪や、着ている服装、そして顔、すべてを頭の中で想像します。
ちょっと集中したくらいでは、超能力は開花しません。
(強く!深く!もっと、もっと、もっと・・・)
そこに電車がホームに近づいてくる案内音が流れてきました。
これで最初の目的だった、次の電車が来るまで目をつぶっている、というのは達成されました。
しかし、いまや目標は大きく変わり、自分の隠された超能力を開花させることになっています。
(待ってくれ!もうちょっとで彼女のイメージが出来るはずなんだ!)
(もうちょっとで超能力が開花するはずなんだ!)
無常にもタイムリミットが訪れて、電車がホームに入ってくる音がします。
(やっぱり、自分には超能力なんてなかったんだ…)
(でも、電車が来るまで目をつぶっていられたから、良しとしよう)
(それに、やってきた人が女性だとわかっただけで、集中できたんだよ)
(がんばったんだよ・・・)
(そうだ!せめて彼女の顔だけでも見ておこう!)
そう思いながら目を開けると…周りには10人くらいの男女が立っていました。
別に自分を怪しんでいる様子はありませんから、ひと安心です。
しかし、自分が想像した彼女の姿はどこにもありません。
(あの集中した時間はなんだったんだ・・・)
と、ボーっと座っていると電車の扉が開いたので、慌てて立ち上がって電車に乗りました。
目的地まで約10分。
もう一度目をつぶって耳と鼻を集中しようかと思いましたが…やめました。
目をつぶって集中したら、今度は目的地を乗り過ごしてしまう気がしたからです。
なので素直にスマホを取り出して、いつものように時間を潰すことにしたときに気がつきました。
(嗚呼なるほどね。だからみんなスマホで時間を潰しているんだ)
超能力を試した結果、社会問題が起きる理由がわかりました。
でわ、股!!
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