ブログ仲間である、しいたけさんことwatto氏から、このようなコメントを頂きました。
萩野公介さんのハナシ - 働けおっさんブロガー
前回のハナシと合わせて、ちょっと怖い考えが浮かびました。よいコーチも悪いコーチも才能のない選手を伸ばすことはできないが、悪いコーチは才能のある選手をつぶすことができるのでは…?
2021/04/06 11:03
現在開催されている水泳の日本選手権の感想を、長年スイミングスクールでコーチの仕事をしてきた観点から書いたエントリー(以下2つ)へのコメントとなります。
しいたけさん、本当にありがとうございます。
これ、物凄く簡単に書くと、いくらコーチに指導力があったとして、才能を持たない子どもの場合は、ある程度までしか速くすることは出来なくて、逆に、才能を持つ子どもと出会うことが出来れば、コーチの指導力は多少あれば十分速くなる、ということです。
で、しいたけさんのコメントにあるように、「悪いコーチは才能のある選手をつぶすことができるのでは…?」という怖い考えへの答えとしては・・・
めちゃくちゃあります!
もちろん、意図して潰すことは「ある!」とは言いにくいですが、コーチとしては潰すつもりはなくても、結果つぶれてしまうことは、めちゃくちゃあります。
例えば、前回、前々回登場した、何人ものオリンピック選手を育てた経験を持つおじいちゃんコーチに言わせると、「北島康介より速い選手は、いっぱいいた」らしいです。
しかし、コーチが選手の才能を発揮させられなかったり、水泳を続けさせることが出来なかったりして、オリンピックなどの世界大会で活躍することなく、消えていったそうです。
ただし、コーチと選手にも相性みたいなものがあって、いくら「良いコーチ」と「才能を持った子ども」が巡り合ったとしても、大爆発しない場合もあります。
例えば、高校生のときに平泳ぎで世界記録を出した男子の選手がいて、その後、平泳ぎの超一流選手を育てたコーチの元で練習をしますが伸び悩み、結局は引退しています。
男子200メートル平泳ぎ元世界記録保持者の山口観弘「悔いない」引退表明、日本選手権限りで(西日本スポーツ) - Yahoo!ニュース
なので、一概に「悪いコーチ」とは言いにくいのですが、かといって「良いコーチ」とされるコーチが全ての選手の才能を伸ばせるわけではないのでしょうね。
そして、実はこっちの方が個人的には深刻だと思うのですが、まだまだ選手とは無関係な、普通にスイミングスクールに通っているけれど、実は隠れている子どもの才能を、コーチが潰してしまっている場合があります。
例えば、普通のコーチが普通の子どもを担当した場合、その時点でキチンとした泳ぎ方を学ばせるために、手足はこう、姿勢はこう、呼吸するときはこう、という感じで「正しい泳ぎ方」に当てはめようとします。
もちろんそれは間違いではありませんし、その基準があるからこそ、学生のアルバイトでも子どもの指導が出来るわけですが、果たしてそれが絶対に正しいか?となると、そうではありません。
というのは、もし、その普通と思われている子どもにとんでもない才能が備わっていたとして、それをコーチが見抜けず、コーチが思う「正しい泳ぎ方」に半ば強引に変えてしまうことで、その才能が潰れてしまうかもしれない、という考え方があるからです。
いや、もちろん、泳ぎ方には基本があって、必要最低限のルールや形を守らなければいけませんが、その範囲内で泳げているのであれば、あとは子どものやりやすいようにさせて、それで楽に速く泳げるのであれば、それがその子どもにとっての正しい泳ぎ方になるはずです。
つまり、実は才能を持った子どもがいても、それを普通のコーチが潰してしまっている可能性は、選手クラスのそれなんかより、もっと高いと思われます。
これは大昔の話ですが、実はバタフライというのは、平泳ぎの選手が「これ、水の上で手を動かしたほうが速くね?」とやり始め、今度は別の選手が「ちょ!ヒザ痛いからドルフィンキックにするわ!」となり、完成した泳ぎ方です。
バタフライは平泳ぎから発展した。当初、平泳ぎの泳法規定は「うつぶせで、左右の手足の動きが対称的な泳法」と定められていた。そこで1928年のアムステルダムオリンピック開催時に、ドイツのエーリッヒ・ラーデマッハーが、現在のバタフライに似た手の掻きと平泳ぎの足の掻きを組み合わせた泳法で平泳ぎ競技に出場し(結果は日本の鶴田義行に次ぐ銀メダル)、その後1936年のベルリンオリンピックで数名の選手がこの泳法により好成績を収めると、1952年のヘルシンキオリンピックでは平泳ぎにおいて、ほとんどの選手がバタフライの手の掻きを用いるようになった。そこで国際水泳連盟は、1956年のメルボルンオリンピックから、独立した種目として扱うようになったが、この時ある選手が膝を痛めて平泳ぎの足の掻きが出来なくなり、両足を上下に動かす現在の足の動き(ドルフィンキック)を考案した。
ここに書かれているように、その当時の平泳ぎの泳法規定は「うつぶせで、左右の手足の動きが対称的な泳法」と定められていて、その範囲内で、より速い泳ぎ方を考え出した選手がいたからこその話であり、もし、コーチが「そんなんアカンやろ!」と止めていたらバタフライは生まれなかった、つまり、悪いコーチがバタフライという泳ぎ方を潰していたかも?というのは、言いすぎでしょうかね?
というわけで、ちょっと長くなりましたが、悪いコーチかどうか置いておいて、子どもの才能をコーチがつぶすことは「めちゃくちゃあります!」と断言できます。
そして、そうやって強く言い切れるのは、自分がこれまで教えてきた子どもの中に、実は物凄い才能を持っていたけれど、それに気付けなかったか、もしくは潰してしまったか、後悔しても仕方がないのですが、絶対にあります。
もちろん、そのことに気がついてからは、出来るだけ「正しい泳ぎ方」という型にはめることをせず、その時点でその子どもにとって「理にかなった泳ぎ方」であればそのままにして、無理しているところだけ修正することに注力してきました。
しかし、その考え方というかやり方を言葉にするのは大変難しく、若手コーチには「そういう考え方があるんだよ?」くらいしか伝えることが出来ていません。
そして残念ながら、そういうところまでスタッフに行き届かせているスイミングスクールも、少ないはずです。
たぶん。
でわ、股!!